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そして走りやすいように左手を刀へ添えると、たちまち駆け出して行った。
あっという間の出来事に、桜花は手元の冷たい金属を見る。"寛永通宝"と書かれた一文銭が十枚ほどあった。しかしこの時代の金銭の価値など分からない。
ふと顔を上げれば、行き交う町民の視線が、取り残された桜花へ向けられていることに気付く。それから逃れるように、止まっていた足をそそくさと進めた。
少し歩みを進めると、www.nuhart.com.hk/zh/ 見慣れた場所に来ていることに気付く。
「──ここは」
そう、高杉と大立ち回りをした道だった。
あれからどれくらいの時が経っているのだろうか。凍えるほどに冷たかった風は、僅かに暖かさを孕み、春の訪れを身近に感じさせた。
その時、あの……と控えめな声が横から聞こえる。そちらを見遣れば、色白でつぶらな瞳が愛らしい女が立っていた。
「あなたは……」
「へえ。先日は助けてもろておおきに」
まさに高杉が助けに向かった茶屋の娘である。にこりと花が綻ぶような笑みを浮かべていた。
「わ、私は何も……。高──いやもう一人の男性が頑張っただけで」
「ふふ、ご謙遜を。こないなところで立ち話もあれや。今……時間、ありますやろか。うちの店に寄ってって下さい」
そのように言われれば、桜花は戸惑いながらも小さく頷く。丁度沖田から茶屋へ入っているようにと言われたばかりのため、丁度良かった。 暖簾を潜り、長椅子に腰掛ける。すると目の前には団子と湯気の立つ茶が差し出された。
「どうぞ、召し上がっとくれやす」
「あの、このお金で足りますか」
桜花は慌てて握り締めていた金を目の前に差し出す。それを見た娘は目を丸くした。
「足ります……けど、お足は要りまへん。これはうちの奢りどす。御礼さしてください」
「そんな訳には……」
普通侍ならば堂々としており、何なら町民を見下す者が多いというのに、まるでそのような気配すら見せない桜花が不思議でならないとばかりに娘は瞬きをする。
くすりと笑うと、袖で口元を隠した。
「ほんなら、次またお客はんとして来てください。その方が嬉しおす」
娘も娘で譲らない姿勢のため、最終的には桜花が折れることになる。
「……分かりました。ありがとう、頂きます」
そう言うと、目の前の団子を一串取ると口へ含んだ。やはり美味しいと相好が崩れる。
「前もそうやったけど、美味しそうに食べはりますなぁ。甘いものはお好きどす?」
そのように指摘されると、たちまち桜花は顔を赤らめ、はにかみながら頷いた。
その様子に娘は胸を高鳴らせる。目の前の若侍は女形の役者のように愛らしい顔立ちをしているが、刀を持った浪士を前にすればたちまち捩じ伏せていた。かと言って恐ろしい訳でもなく、甘味を食べて喜んでいる。その差異が何とも言えない魅力だと思った。
「……すんまへん、ようけ話しかけてしもて不躾どした。やかましかったどすな」
娘は申し訳なさそうに眉を下げると、奥へ引っ込もうとする。
それを見た桜花はその背へ口を開いた。どうも年が近いとは何を話せば良いのか分からない。故にぶっきらぼうになってしまったが、気を遣わせただろうかと罪悪感が襲ってきたのだ。
「あ、あの!居て頂いて大丈夫……です。すみません、あまり話すのが得意ではなくて」
そのように言えば、娘は嬉しそうに目を細めながら戻ってくる。
その時、比較的近くから笛の音が聞こえた。それに桜花はビクリと肩を跳ねさせる。
それを見た娘は、先日この若侍と居たもう一人の侍が、入京を禁じられている長州の訛りだったことを思い出した。
──もしかして、こん人も?
「あの、奥に隠れはります?何なら、裏の勝手口から外へ出ることも出来ますよって」
その問い掛けに、今度は桜花が目を丸くする。
「え?」
「捕物から逃げてはると違います?」
「えっと……、私が?」
「へえ」
思案の末に、娘が勘違いをしているということに気付いた。恐らく、訛りの強い高杉と共に居たためにそう思ったのだろうと。